2012年10月31日水曜日

小説『ブランコ』


 ブランコ  日曜日。暑い夏が終わり、ようやく涼しくなってきた頃。  昼過ぎまで布団のなかで寝ていた。そのせいか頭が痺れている。  前夜は遅くまで飲んだ。缶ビールを一パック空けてしまった。飲みすぎである。眼を覚ましたときにはさすがに反省した。  どうして昨日はあんなに飲んだのだ? そんなに飲む必要はなかったではないか。何がおれを飲酒に駆り立てるのだ? とにかく飲みすぎだ。今日からは飲まないことにしよう。そう心に誓った。  だがそんなことはいまさら始まったことではない。このところ毎日なのだ。朝起きたときに、前夜の飲酒の反省をする。そしてもう当分は飲まないと決心する。しかし夜になるとなぜか夢遊病者のようにさまよい歩き、気がつくと缶ビールの蓋を開けている。そして翌朝にはまた反省する。それがおれの日課になっていた。  毎度毎度の反省である。でもそんなことは誰だってそうだろう? 飲んだ翌日はもう飲むまいと誰だって考えるだろう? しかしその決心は十数時間しか続かない。夜にはまた懲りずに飲んでいる。 「今日は休みだから、働きに出なくていいんだな」  安心していいはずなのに、逆に自分の言葉にぎくりとなった。  布団からのそのそと起き出して、窓から外を見る。いや、嘘はよくない。正しくはこうだ。窓から見える家と家の十数センチの隙間から、青空を覗き見した。おれの部屋には日差しがほとんど射さないということだ。いつもじめじめしていて、畳からはきのこが生えたりしている。気持ち悪くて近づく気にもなれない。誰だってこんな部屋には居たくない。おれだってもちろん居たくはない。だから急いで服を着替えると外に飛び出した。  外の空気はひんやりしていてさわやかだった。深呼吸しながら道のまんなかを歩いていると、遠くで子供たちの歓声が聞こえた。  今日は幼稚園の運動会でもあるのかな?  近くの公園まで散歩した。並木に囲まれた公園で、中央には盛り土した丘があり、子供たちが走って登ったり、滑るようにくだったり、笑いながら転がったりしている。うるさいので、公園を斜めに突っ切って早く向こう側から出ようと思った。遊具の設備がある方へ向かった。キャッチボールしている子供たちのあいだを抜けて行く。  球形のジャングルジムがあり、砂場があり、シーソーがあった。子供たちは遊具を使って自由に遊び、母親たちがそれを嬉しそうに眺めていた。  青と赤に塗り分けたブランコが、おれの眼にとまった。他の遊具には子供らが群がっているのに、ブランコの周囲には誰もいない。 「へえ、こいつはいいね」  ブランコはふたつあった。ひとつは赤く塗られており、もうひとつは青く塗られている。  赤く塗られているほうのブランコに腰を落とし、手で鎖を握った。鎖は冷たくて、火照った手に気持ちがいい。  なんとなく足をそっと動かした。するとブランコが静かに前後に揺れだした。そういえば子供のときはブランコが大好きで、一日中でも乗っていたいと思ったものだ。お母さん。あなたはやさしく背中を押してくれましたね。でもそのうちにあんまりブランコにばかり長時間乗っているものだから、徐々に不機嫌にもなっていきましたね。 「もう帰ろう」 「いや、もうちょっと」 「ねえ、もう帰ろうよ」 「まだ漕ぎ足りない! もう少しいる」 「いい加減にしなさい。もう帰るよ」 「いや。まだ居る」 「勝手にしなさい。お母さんはもう帰るよ」 「いやだ、いやだ。お母さん、背中押して。だってまだ乗っていたいんだもの」  そんな会話が交わされましたね。  おれはブランコの上に両足で立ち上がり、勢いよく漕ぎ始めた。腰を使って、ブランコを大きく揺すった。なぜかわからないが、死に物狂いで漕ぎ始めた。すぐに汗が出て、こめかみを滝のように流れて行く。ブランコは大変な勢いで空を飛んでいる。手を離したら、おれ自身が百メートルも飛んで行きそうだ。  ブランコを漕ぎながら、決心した。そうだ。おれは今日一日ブランコに乗っていたい。今日、これからずっとだ。一分たりとも休んではならない。ずっと漕ぎ続けるのだ。明日の朝、夜が明けて再び明るくなるまで漕いでいたい。それが子供のときの願いだったのだ。それをいま実現する! ホースで水を撒くみたいに汗を撒き散らし、瞳をダイヤモンドのように輝かせながら、おれはブランコを漕いだ。  するといままでブランコにはまったく興味を示さず、振り向きもしなかった餓鬼どもがブランコの周囲に群がってきた。 「ぼくもブランコに乗りたい!」 「私も乗りたいよお」 「ぼくも、ぼくも」  餓鬼どもが、若い母親の袖を引っ張りながら、これみよがしに叫んでいる。 「順番だからね」 「順番だからね。すぐにどいてくれるよ」 「もう少しの辛抱だよ」  母親たちもこれよみがしに言い聞かせる。 「ふん」  おれは腹のなかで笑ったものだ。確かにもう少しの辛抱かもしれないな。明け方までの辛抱だ。時間にして十数時間。たいした時間じゃない。  腰が少しずつ疲れてきた。踏ん張る脚が震えてくる。鎖を握る手の握力が無くなって行くのがわかる。それでも漕ぎ続けた。一所懸命に漕ぎ続けた。もう絶対に、何がなんでも漕ぎ続けるのだ。おれは一日ブランコを漕ぎ続ける!  ブランコは実際のところ、もうひとつある。だから子供たちはそのブランコで順番に遊べばよい。ところが餓鬼どもはそのブランコでは遊ばず、おれの漕ぐブランコの横で列を作っている。  どうしてそっちのブランコで遊ばない?  すぐに謎は解けた。よく見ると青いブランコは壊れているのである。鎖が片方はずれていて、板の端がさびしげに地面と接していた。気づかなかった。なるほどね。そういう理由か。  それにしたって可笑しいではないか。それまではブランコなんかには眼もくれず、他の遊戯器具で遊んでいたのに、おれがブランコを漕ぎ出した途端、集まってきて、ブランコに乗りたい、ブランコに乗りたいと騒ぎ出す。どういうことだ?  だがそんなことはどうでもいい。おれは今日一日ブランコを漕ぎ続ける。それだけだ。  堪りかねた母親が、おれに向かって牙をむいた。 「いつまで乗ってるつもりなんですか?」 「子供が並んで待ってるんですよ」 「あなた一人のブランコじゃないんですよ」  そいつらを横目で睨みつけてやった。連中の顔は、まるで動物園のかばであった。  その後も、おれへの攻撃は続いた。 「早くどけろ。子供が遊ぶものだぞ」  父親らしき男がやってきて怒鳴りつける。  ひるみそうになったが、とどまった。絶対にとまってやるもんか。一日このブランコを漕ぎ続けると決めたのだ。  見込みはあるの?  体力的には厳しかった。ブランコもこれでなかなか体力が必要なようだ。しかし負けない。怒鳴り声に負けじとばかり、鬼の形相で漕ぎ続けてやった。  やがて周囲が薄暗くなってきた。 「やっとか」  正直そう思った。くたくただ。だが待っている連中もそれは同じだったようだ。おれを取り巻いていた餓鬼どもや母親、それから父親連中の数も徐々に少なくなっていった。そして日がすっかり暮れた頃には、おれの周囲には一人もいなくなった。最後まで先頭で待っていた子供は、泣きじゃくって母親に抱きついていた。 「ブランコに乗りたい。ブランコに乗りたい。ブランコに乗りたいよ」  経文のように唱えていた。 「ひどい人ね!」  母親は悔しそうに叫んで帰っていった。悔しがれ。おれの勝ちだ。母子の後姿は、暗がりのなかに消えていった。  一人きりになると、鎖がこすれる音や軋む音が、より響くようになった。雲はない。暗くなると、空には星が瞬くようになった。星空と暗い地面を交互に見る。今日は何度、空を見たことだろう。  ひどく疲れていた。鎖を握る手の感覚はなくなり、脚はもう動かない。腰が痛い。今日一日がこんなことになろうとは。明日は動けなくなるかもしれない。歩けないだろう。トイレにも行けないかもしれない。もう止めたい。止めちゃうか。もう止めよう。いやいやいや。止めてなるものか。いまさら止めてなるものか。同じ言葉が何度も繰り返される。  真夜中、公園は静かだった。スケートボードで遊ぶも者もいない。ときどき人が通り過ぎた。立ち止まって、眺めて行く者もあった。しかしそれほど長くは眺めない。係わり合いになるのを恐れているのだ。カップルが楽しそうに喋りながら近づいてきて、おれに気づくと、黙ってうつむいて通り過ぎた。犬がときどき吼えて、おれをびっくりさせた。だがそれもすぐに闇のなかに消えていった。  おれの意思は固いはずだった。明け方まで漕ぎ続けるはずだった。しかし身体のほうが限界だった。おれの身体が動かなくなった。同時にブランコの動きがゆっくりになり、やがて止まった。もう一度漕ぎ出す力は残っていなかった。しばらくはそのままじっとブランコの上に立っていた。あんなに暑かったのに、いまは妙に寒い。はやく家に帰りたい。だが身体が動かないのだ。ようやく足を動かすことができて、地面を踏んだ。地面の感触をこれほど懐かしく感じるとは。地面はどっしりとして、踏んでもびくともしなかった。指を一本ずつ伸ばして、手を鎖から離した。てのひらには鎖の彫刻が出来ていた。  溜息。それからゆっくりと歩き始めた。身体が歩き方を忘れてしまったようだった。右足を出して、次は左足を出して、右腕を前へ。左腕を前へ。頭のなかで考えながら歩かなくてはならなかった。油の切れた自転車みたいだった。関節がきりきり鳴った。  何時だろう。公園の時計を見る。が、暗くて何時だかわからない。明け方ではないことは確かだ。まだ真っ暗だから。仕方がないので、携帯をポケットから取り出した。まだ11時23分であった。 「夜明けまで漕ぎ続けるのだ」  固い決心のつもりだったが。  また無駄な遊びをしてしまった。家に帰ると、すぐに布団にもぐりこんだ。耳を枕に押しつけ、背中をまるめ、眼を閉じた。眼からは涙が流れ出て、こめかみを伝った。

即興劇

即興ってなんだろう。
悩むなあ。

今日は即興のワークショップに行ってきた。
そこに行けば、即興の謎がすべて解決すると思ったら、全然そんなことはなかった。
いやもうがっかり。

もちろん即興の意味はわかるさ。
でも即興で面白く演じるためにはどうればいいの?
youtubeに即興(インプロ)のムービーがあがってた。
いくつか見てみた。
でもあまり面白いとは思わなかった。
子供だまし。

即興ってどうすれば面白くなるんだろう。

即興のお題作成プログラムってどこかにないかな。
ボタンを押すと、即興のお題が自動的に出てくるの。
誰か作ってないかな。
どこかにありそうだけど。
単にランダムに単語(言葉)が出てくるだけでいい。
それがあれば一人で即興の練習ができるかも。
誰か作って。
てへへ。

2012年10月29日月曜日

劇団山の手事情社『トロイラスとクレシダ』

東京芸術劇場シアターウエスト。

一風変わったお芝居でした。
独特の方法論と演出で構成されていました。

大地震直後のパーティー会場のような舞台。
大きなテーブルがふたつひっくり返り、折り重なっている。
それが舞台の中央を占めている。
椅子もいくつかひっくり返っている。

登場する人物たちは、パーティーの出席者のように正装している。
でも彼らは人間ではない。
カラスと犬に別れて、戦争をしている。
そんな感じ。

不思議な『トロイラスとクレシダ』でした。

2012年10月28日日曜日

メガバックスコレクション「45Av(フォーティフィフスアベニュー)の悲劇」

薦められたので観に行きました。
途中までは、ああ面白いなあと思った観てたのですが、、、
後半ちょっぴり眠気を誘われてしまいました、、ごめんなさい。

こういう人がいないと話が進まないんだよなあという感じの、自分勝手な人がいて、
あといろいろと現実に行き詰っている人たちがいて、、、

バイオハザード。
とは違うかもしれないけど、
いかにもな状況で、いかもにな人たちが生き残ってて、
そして、個人的にはもっともあって欲しくない結末でした。

それぞれのキャラクターもいかにもな感じで、
役者の個性が生きていないよう。
役者個々人が、その類型的なキャラクターをぶち壊してほしかった。

主人公の職業がプログラマーで、シミュレーションのプログラムをつくっていると聞いて、
ぼくはたとえば宇宙の銀河の生成のプロセスなんかのシミュレーションをイメージしてしまいました。
でもそうではなくて、ゲーム関係のシミュレーションということになってました。
脚本の作者にとっては、シミュレーションというとゲームのことなんだなあと思って、
その点でも、「ああ、ゲーム世代か」とがっかりしました。
ゲーム世代が悪いというわけではないのですが、、、なんとなく、、、やっぱりパイオハザードなんだと、、、

2012年10月27日土曜日

劇団ジャムジャムプレイヤーズ『あの海の向こうから』

マチネ拝見しました。平日昼割でお安くなってたので(^_^)

いや、素晴らしかったです。最高でした。
今年観た芝居のなかで、いちばんじゃないかと。

肩の凝らない演技で、つぼを心得た笑いがあって、
最後はうるうるさせられるという、コメディ(?)の教科書のような芝居でした。
気持ちよかったです。
いっぺんで聖子さんのファンになっちゃいました。

ひとつだけ難点を言わせていただくとすればですね、
芝居のタイトルですかね。
普通すぎてインパクトがないような。
「なんてタイトルだったかなあ」
あとでチラシをもう一度見るまで、思い出せませんでした。


夜はまた劇団きのこ牛乳のワークショップへ。三日目。

シアターゲームで面白かったのは、『ウインクキラー』というゲーム。
参加者は勝手に歩き回ります。
スナイパーに選ばれた人は、誰かと目をあわせたときウインクで人を殺すことができます。
ウインクされた人は、ウインクされた五秒後に死んでその場に倒れます。
スナイパーでない人は、誰がスナイパーかを探し出せば勝ち。

人が急に倒れて死んでいく。
誰が犯人かわからない。
緊迫しました。(^_^;

2012年10月26日金曜日

リンクス東京Bチーム

LINX'S TOKYO の2日目マチネ、Bチームを観劇。

正直いって初日のAチームは、6劇団中、個人的ににヒットしたのは、1劇団のみ。
つまりヒット率は、1/6 でした。
だから2日目の観劇は躊躇してしまいました。
また大部分の時間を、眠気を堪えることに費やさねばならないとしたら? と考えると恐ろしくて。
でも予約もしちゃったし、観なければ、と思って、、、

結果、すごくよかったです。
ヒット率は、3.5/6 でした。
最後の空想組曲がね。前半眠気を誘ったけど、後半はすごくよかったので、0.5 と計算しました。

いちばんは、犬と串かテノヒラサイズ。
どちらもよかった。
どちらかひとつは選べない。
ふたつ同率一位ということで、、、

テノヒラサイズは、11月上旬に東京公演があるので観に行かねばと思ったけど、行けるかな?

2012年10月25日木曜日

LINX'S TOKYO Aチーム

リンクストーキョーAチーム、観て来たよ。
初見の劇団ばかり。
1劇団20分は短いよね。
すぐに終わってしまう。
だからちょっと不満が残る。
セットとかも基本ないわけで。
役者の演技力が試される場かもしれない。

いちばん面白かったのは、劇団ニコルソンズかな。
大人数でわさわさやってたけど、ちゃんとまとまりがある感じ。
本公演、機会があれば観たいけど、大阪の劇団だしね。

明日はBチーム観に行く予定。
これも楽しみ。
でも何度もいうようだけど、二十分じゃなあ、、、短い。



終わったらすぐに西荻窪へ。
劇団きのこ牛乳のワークショップに参加。
シアターゲームをいくつかこなしたあと、
グループに分かれて本読みと立ち稽古。
次回公演のオーディションも兼ねてるから、こういうのは必要だよね。
三日連続。
明日も明後日も参加する予定。
これが終わったらしばらくはワークショップには参加しない。

劇団40CARATの公演の稽古がすぐに始まるからね。
楽しみ、楽しみ。

2012年10月21日日曜日

ワークショップって?

今日の演劇ワークショップはつまらなかったな。
いつも楽しいとは限らないんだな。
どれが面白くて、どれがつまらないか、選択眼を鍛えなくては。

でもまあこれもいい経験だと思えば。
当たりはずれがあるのは仕方が無い。
つまらなくても、ひょっとすると実は身にはなってるかもしれないし。
来週もまた演劇ワークショップの予定がたくさん入っている。
ダイエットのために始めたはずなのに、
こんなに熱中するとは思わなかった。

いまのところの目標は、
即興が上手になることと、
本を読むとき、もっと滑らかに読めるようになることかな。

おれはいまここにいる

以前、書いた短篇です。
置いときますね。
感想など、ありましたら。

---------- ここから ----------

 おれはいまここにいる

 隣に住んでいる爺さんが肉を分けてくれた。
「いちばん上等なサーロインだ。大事に食いな」
 そういって肉の塊を放り投げてよこした。嬉しかったね。おれは肉に飢えていたのだ。肉が食いたくて仕方がなかったのだ。肉、肉、肉と、肉のことばかり考えて、他のことは考えられなかったほどだ。
「ありがとう。いつもすまないね」
 よく研いだ包丁を取り出して、もらった肉を一枚厚く切った。塩をふって、フライパンで焼いた。充分時間を掛けて焼いた肉を皿に盛り付けて、ナイフとフォークを巧みに使い、食べやすい大きさに一切れ切って口に入れようとしたときに気がついた。
 そうだ。あいつにも分けてやろう。
 あいつというのは、家のなかで飼っている虎のことである。おれは家のなかで、虎を飼っていたのだ。
 虎というのは知ってのとおり肉しか食わない。だから毎日肉の調達におれは四苦八苦していた。自分では肉を食わず、虎に肉を食わせていた。おれが苦労して仕入れしてきた腐りかけの安い肉を、あいつは毎日まずそうに食うのである。しかし今日ここにある肉は、最高級サーロインだ。虎のやつもびっくり仰天するに違いない。
 おれは虎を呼びつけた。
「ほら、こっちに来い」
 そして残りの肉を全部塊のまま放り投げてやった。
「今日はいい肉だぞ。味わって食え」
 ところが虎のやつ、なにをとち狂ったのか、おれ様に襲い掛かってきやがった。そういえばここんとこ肉を買う金がなくて、虎のやつにはひもじい思いをさせていた。おれを恨むのも無理はない。しかし食われるわけにはいかない。おれは逃げようと、手近にあったものを虎に投げつけた。鉛筆があったので投げつけた。もちろん効果はなかった。やつはそれを大道芸人のように咽をたてて飲み込んだ。メモ帳があったのでそれも投げつけた。やつはそれも一瞬のうちに飲み込んでしまった。次に投げるものを探しているうちに、虎のやつはおれを大きな十本の爪で押さえつけ、頭から噛みついた。
 違うだろう。お前が食うべきはそっちの肉の塊であって、おれではないぞ。
 そう怒鳴りたかったができなかった。やつはおれをあっというまに平らげてしまったのだ。なんということだ。上等なサーロインよりもおれのほうがうまいというのか。死肉より生きているおれのほうが断然食い応えがあるということか。一般論なら納得できなくもない。だが、おれ個人の身になるとやはり納得はできない。虎なんか飼っていたことを後悔した。
 しかしすでに遅い。おれは虎の胃の中に納まってしまったのである。虎の胃の中には、幸運なことに鉛筆とメモ帳があった。おれはいまそれを使ってこの文章を書いている。
 まだ書きたいことはあるのだが、余白がなくなってしまった。とりあえずこのページだけ破いて、腸のほうに押し込むことにする。このメモ用紙は耐水性だ。消化されずに虎の肛門から噴出されることを祈る。
 助けてくれ。おれはいま虎の胃の中にいる。
 続きはまた書くつもりだ。

2012年10月20日土曜日

牛が立って私を見ている

短篇小説、書いたよ。
感想など、聞かせていただければと。

---------- ここから ----------

 牛が立って私を見ている

 牛と散歩していると、奴が突然聞いてきたのである。
「おれのどこが食べたい?」
 私は立ち止まった。そんな質問をされるとは思ってもみなかった。牛がしゃべるとも思わなかった。
 牛はあかい眼で私を見つめている。道のまんなかで、私はしばらく牛と顔を見合わすことになった。牛の奴は、スイカみたいに大きな赤いべろを長々と垂らし、振り子みたいに揺らした。唾液が垂れて地面に落ちた。
 しかし牛がしゃべるわけがない。空耳に決まってる。私はまた手綱を引いて歩き出した。牛は抵抗することもなく大人しくついてきた。ふう、やっぱり空耳だった。安心した途端、牛の奴がまた聞いてきたのである。
「おれのどこが食べたいか言ってみな」
 低いだみ声が、私の耳にこだました。
 私はまたしても立ち止まった。そして振り返って、奴を見た。
 牛の奴、今度は右の肩あたりをゆさゆさ揺すって見せるのである。見方によっては、肩ロースが食いたいのかと、問い掛けているように見えなくもない。ということは、さきほどべろをぶらんぶらん揺らしていたのは、タンが好みかねと言っていたとも受け取れる。
 そこで私は馬鹿らしいと思いながらも、「どこならごちそうしてくれる?」と聞いてみたのである。
 牛の奴はにやりと笑いやがった。そして今度は尻を左右に振った。女が男を誘うときみたいに。正直に言おう。私はそのときちょっぴり欲情した。牛が尻を振るのを見て! なんということだ! 尻の肉はランプという。次に牛は尻尾を振って見せた。それはテールだ。
 次には腿を私に押し付けてきた。
「ほんとうはどこが食べたいのかね」と牛が聞いてくる。
 牛の奴は慣れない散歩ですこし興奮しているみたいだ。無理もない。ここは牛の奴がはじめて通る道なのだ。
 落ち着け、落ち着け。
 私は牛の後ろにまわりこみ、腰のあたりをそっとさすってやった。すると先ほどまでわさわさ身体を動かしていた牛が、急に大人しく静かになった。首を垂れ、舌をひっこめた。
 手綱を引いてまた歩き出す。
 しばらく行くと、トラックが待っていた。牛は荷台へ掛けた板を素直に上っていった。運転手は組合の制帽をかぶり、茶色のサングラスを掛けていた。耳にイヤホンをつけている。音楽を聴いているようだ。身体を左右に揺すっている。私がよろしくお願いしますと言うとが、運転手は顔を上げ、「ここにサインしてください」と事務的に言ったきりだった。
 私は道端に立ち、トラックを見送った。牛の姿は荷台の幌に隠れて見えなかった。
 その夜遅く、家の戸を叩く者があった。出ると、見知らぬ男が立っていた。組合の制帽を被っている。何が嬉しいのか。やたらと愛想よく笑っている。
「ご注文のサーロインロースです。いい肉ですよ。ここに置いときますね」
 男はそう言って立ち去った。
 私は肉を冷蔵庫に仕舞った。
「明日の夕飯はステーキね」
 妻は嬉しそうであった。

劇団40CARATワークショップ

今日は表題のワークショップに参加。
ちょっとしたダンスの練習と、そのあとは台本の読み合わせ。

ダンスは普段練習もしてなくて、ついていくのがやっと。
というか本当はついて行けてもいなかった。
とほほ、、、
もっと講師が優しかったらなあ。

後半は、台本の読み合わせ。
台本というのは、新年の公演に向けたもの。未完成。

未完成の台本というのは、どんな感じで読めばいいのだろう。

ぼくの演劇教科書『俳優のためのハンドブック』によると、台詞を覚えるときは抑揚をつけないこと、とある。ラインリーディングしてしまうと、決めつけた同じ読み方を何度も繰り返してしまうことになるから。
だから僕としては、読み合わせのときも、なるべく抑揚をつけたくなかった。
でも他の俳優たちは、たっぷり抑揚をつけて読んでいた。
普通はやはり抑揚をつけて読むものなのだろうか。

うーん、まあ、いろいろと試しながら読むというのが現実的なのかもしれない、というのが今のところの僕の結論。


演劇ワークショップが終わったあとは、急いで新宿へ。
仕事の打ち合わせがあったから。これでもそれなりに仕事はしてるんですよ。
職業は、CGアニメーター(と自称している)。
でも居酒屋でビール飲みながら。
わあ、おきらくー。
打ち合わせは早々に済ませて、終電まで飲んで帰宅しましたとさ。

2012年10月18日木曜日

劇団山の手事情社、稽古見学

以前、劇団山の手事情社のワークショップに参加したときに、稽古の見学に来てもいいですよと言われたので、のこのこ行ってきました。

13:30 くらいにスタジオに到着。
もう稽古は始まっていました。
24日から始まる『トロイラスとクレシダ』、シーン毎の練習を、
稽古場の隅でずっと見学させていただきました。
大抵は穏やかだけど、ときどき演出の怒号が。
見ているだけのぼくも緊張したりして。

18:30 ぐらいから、通し稽古。
メイクや衣装なども本番に近いものが用意されてしました。
そりゃそうですよね、あと一週間で初日ですから。

いや、なかなか刺激的でした。
独特のものがありますね。
勉強になりました。
本番が楽しみです。
ぼくは28日、日曜日に観に行く予定です。

劇団山の手事情社、一日体験入団

あれ、いつだったかな。
表題のような感じの名前のワークショップに参加した。
そのときのことを記憶が残っているうちに書き記しておこうと思うのだ。
でも、ぼくの記憶を頼りに書くので、まちがっているかもしれない。
思い違いもあるかもしれない。いや、きっとあるだろう。

講師は、劇団の俳優でもあられる浦弘毅さん。

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最初に『俳優の6つの要素』というものを説明してくれました。
1、観察力
2、身体
3、声
4、感情
5、発想力
6、知識
全部同時に突き詰めるのは難しいから、どれかひとつを決めて突き詰めるのがよい、というようなことをおっしゃってたと思います。
大体わかるけど、4の感情を突き詰めるってどういうことだろう。

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山の手の呼吸法は、『密息』だと教えてくれました。
(これは以前書いたかも)
でも、正確には密息とは異なるともおっしゃっていました。

横隔膜を下げることで、腹に力を入れる。
すると体が安定して(重くなり)、押されても動かなくなる。
その状態で相撲を取ったりしました。
(あれ、演劇のワークショップですよね?)

基本の姿勢。
1、まっすぐに立つ。
2、横隔膜を下ろして、視野を広げる。
(視野を広げることを、『空間を持ってくる』というような言い方をしていました)

この辺が曖昧です。
横隔膜を下げるって?

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『二拍子』

人間の反応。
1、出来事が起こる
2、反射(驚き)(無意識の反応)
3、脳理解
4、感情

例1。
1、誰かに驚かされる(出来事)
2、反射的に驚く(反射)
3、誰かが脅かしたんだと理解する(脳理解)
4、たとえば笑いになる(感情)

例2.
1、部屋がゆれる(出来事)
2、反射的に驚く(反射)
3、地震が発生したと理解する(脳理解)
4、たとえば怖がる(感情)

『二拍子』は、2の無意識の反応を有意識化して持続させる練習である。
(2を頭のなかで繰り返す練習)
つまり、楽しかったことや悲しかったことや怖かったことを意識して思い出して、
感情の発露を身体を通してコントロールすること。

技術的には、体の形や手の形をシンメトリにしない。
シンメトリにするのは、無意識の産物だから。

、、、なんか説明になってないかもしれない。
ゴメンなさい。

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歩行の練習もしました。
8拍子でゆっくりと。
眼を閉じて、視野に頼らずにまっすぐ歩く練習をしました。
また眼を開けて、目標を定めて(ロックオンという言い方をしていました)歩く。
しかし視野を広くして歩く。

これも、なんか説明になってないですね。
ごめんなさい、、、

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山の手の即興は、よく言われる and or ... ではない。not because である。
そのほうがエネルギーが必要であるとおっしゃっていました。

そういえば、ワークショップの最初に、『名前オニ』というシアターゲームをやったのですが、
山の手の『名前オニ』では、とにかくオニは全力で捕まえること、オニじゃない者は全力で逃げること、というふうに指導されました。
何事もエネルギッシュではなくては駄目ということですね。
俳優はとにかく元気でなくては駄目だと、おっしゃってたと思います。

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俳優は人間の歴史を表現するもの。
日本人の場合は、横隔膜と小指。
そこが力が入る場所。

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自分で書いていて、意味がよくわからない部分があったりしますが、、、
ごめんなさい、記憶が曖昧です。
そのうち確かめる機会がまたあればいいなあ。

2012年10月17日水曜日

奥多摩登山

昨日、今日と奥多摩登山に行ってきました。
(いつ仕事してるんだっていう感じですが、、、)

友だちのアニメ演出やってる和田さんと、
早朝、奥多摩駅で待ち合わせ。

超満員のバスで、川乗橋へ。
それから、てくてく歩いて、百尋の滝へ。
(うおーっ、きもちいー)
それからまた、てくてく歩いて、川苔山の頂上へ。
(うひょー、晴れててさいこー)

昼食は、どん兵衛カレーうどんでござんす。

なんとか歩いて蕎麦粒山へ。
(けっこう疲れたなり、、、)
一杯水避難小屋を目指す。そこで一泊予定。
(水場が枯れてたら困るなあ)
心配しながら、とぼとぼ歩いていると、水場発見。
水はちょぼちょぼ出てました。
いやあ、よかった。一安心。

一杯水避難小屋はずっと前に一度行ったことがあって、
そのときは薪ストーブがあった。
小屋の周囲の枯れ枝を集めて燃やした。
あれはあったかかったなあ。

でも昨日行ったら、ストーブは撤去されていた。
ストーブがあった、四角い跡あがあるだけ。
煙突の穴もふさがれていた。
薪を燃やすことはもちろん出来ない。
寒かった。
一杯水避難小屋はストーブがないと寒い。
凍えながら一夜を過ごしました。

隣で横になってる和田さんはよく眠っているようで、夜中じゅうずっといびきが聞こえていた。
でも朝「よく眠れた?」と聞くと、「寒くて全然眠れなかった」という返事だった。
「寒くて寒くて凍えそうだったから、こうやってリュックに足を突っ込んで寒さをしのいでたんだよ」

今日の天気予報は、夕方から雨。
雨が降ると、登山なんて全然楽しくない。
朝食を取ると、ヨコスギ尾根を通ってとっとと下山。
ところがバスを逃してしまった。
次のバスは2時間後。
(ぎょへー)
待ってても仕方がないので、奥多摩駅目指して舗装道路を歩く。

川乗橋を過ぎてすこし行くと、つり橋があり、川辺に降りる小道もある。
そこを降りていって、靴と靴下脱いで、ズボンをまくる。
水のなかに入って、しばらくぺちゃぺちゃ遊んだ。
(ひえー、水がちょーつめてえ。でもきもちいー)
そのうちバスがやってくる時間になったので、急いであがって、バスで駅まで帰りましたとさ。
それが昼ぐらい。

駅舎のなかにある軽食屋で、和田さんは肉どんみたいなやつ、
ぼくは生ビールとニジマスのフライのランチとわさびコロッケを一個、
食べて帰りました。

品川に着くと、小雨。
傘がなくても歩けるぐらいだけど、早めに帰ってきて正解!
いまは結構降ってるようですね。

2012年10月15日月曜日

奥多摩

明日は奥多摩登山の予定。
川苔山から、どこか山小屋に一泊する予定。
晴れますように。
早く寝なければ。
明日は三時起床の予定。

劇団チャリT企画公開稽古

劇団チャリT企画の公開稽古に参加。
劇団員が三人と外部の参加者が二人(そのうち一人がぼく)。
なんとなく寂しい。

ストレッチのあと、腕立てやら腹筋運動やらスクワットやら。
え? 演劇の稽古なんですよね?

そのあと基礎稽古と呼ばれているもの。
脱力ジャンプ。
歩行3タイプ。ドンキホーテ。ゼロ。地平。

稽古というより、修行している感じでした。

2012年10月14日日曜日

宇宙の旅、セミが鳴いて

演劇ユニットやさしい味わい。マチネ観劇。
池袋、シアターKASSAI。

いやあ、、、
長い航海を終えて、地球に帰還間近の宇宙船。
でも誰かが軌道を変えてしまい、地球に帰還することが不可能に。
でもって、船長が誤って燃料を放出してしまって、空気も残りわずかに。
なんだかものすごく緊迫した状況のはずなんだけど、
乗組員のみなさんは妙にまったりしていて、
恋愛の話とか、誰が誰を好きみたいな話ばっかり。
まだキスしたことがないから、誰とキスしたいとか、したくないとか、、、

宇宙船のなか、選ばれた有能なエリートの乗組員が集まっているという設定のはずなのに、
話の内容は???

はっきりいって辛かったです、二時間近く。
じっと硬い椅子に座っているのは苦行でした。

会話劇で、役者の方々が立ったまま話をしていることが多いのだけれど、
まっすぐにじっと立っていることができず、ゆらゆら揺れているのが、
なんだかなあと、、、

あと演出なのか、煙草を吸うシーンが何度かあって、
わざわざ煙草吸ってんじゃねえよ、煙いだろうが
と思ってしまいました。ふう。

あと、とってもハンサムっていう設定の役のひとが、
全然ハンサムじゃないっていう、、、

地球に帰れなくなって、死を受け入れるしかなないという状況になって、
乗組員のみなさんが結構冷静なのは、まあ、現実にはそういうこともあり得るかもしれない。
でも劇なのだから、そのへんはもう劇的なことが起こってほしいなあ

なんだか厳しい感じで書いてしまって、ごめんなさい。
すぐに自分に跳ね返ってきそうです、、、

2012年10月13日土曜日

船をたてる

早稲田大学学生会館。
『船をたてる』のマチネを観た。
観ながら『銀河鉄道の夜』を思い出した。
くじらって何だったんだろう。
女神が「私は女神じゃなくて一人の女よ」みたいなことを言ってたけど、意味がわからなかった。
女神は普段は舞台の端に後ろ向きに立っていて、台詞があるときに舞台中央まで歩いてくるのが、なんとなく間抜けな気がして可笑しかった。
不可思議な芝居だった。

夕方は、劇団40CARATのワークショップへ。
次の公演の台本で、出来上がっている一部について、読み合わせを行った。
配役を変えながら、何度か読み合わせた。
ぼくは一度マダムの役になって、台本を読んだ。
読みながら、「ああ、おれ、この役やりてえ」と思った。
女装して舞台に立ちたい。
でも主役級の役だから、ぼくに回ってくることはないだろうな。

2012年10月12日金曜日

東京農業大学演劇部『ら抜きの殺意』

東京農業大学演劇部。
はじめて行きました、農大。
用賀から二十分。けっこうあった。

17時開演だとわかっていたはずなのに、1時間間違えた。
会場に到着したのが、それでも17時40分ぐらい。
お願いして途中から入場させてもらった。せっかく来たのだから。

ら抜き言葉や、言葉の意味の変化、日本語の微妙なニュアンス、方言、相手によって言葉を使い分けるなど、人が話す言葉がテーマの芝居。

ら抜き言葉で対立する男二人。
タイトルに殺意とあるからには、
もうちょっと殺意を抱くにまで至るような展開を期待したのだけれど、
そこまではなく。
最後は、和やかな感じで終わり。

途中から見たせいか、掃除のおばさんが福社長であるとか、
設定がよくわからなかったりした。
仕方ないですが、、、

初日は、観客も含めて皆で乾杯する、ということだったので、
おや、ビールが出るのかなと思ったら、オレンズジュースでした。
そりゃそうだよね。
学内の施設で飲んじゃいかんよね。

2012年10月10日水曜日

俳優のためのハンドブック その2

『俳優のためのハンドブック』
今日は最後まで読み、
それからまた最初から読み直した。
うん。買ってよかった。
演技についての考え方がすっきりした。


俳優は考える前に演じなくてはならない。

衝動が自分自身を表現しはじめたとき、俳優はいまこの瞬間を生きていると自覚できる。

すべての衝動を、疑いや批評から解き放つ。

戯曲の虚構を信じ込もうとせず、身体的アクションに集中する。

即興とは、どのようなアクションをすべきかを、瞬間から瞬間へと衝動的に選ぶこと。


読みながら、昨日の演劇ワークショップでの出来事を思い出していた。
簡潔なお題が与えられて、その状況を即興で演じるエチュード。

そのとき、ぼくに与えられたお題は『救急車を呼ぶ』というものだった。
どんな風に演じるかを考える前に、すぐに演じ始めなくてはならない。
ぼくはすぐに手に持った架空の携帯電話に向かってしゃべり始めた。
「すいません、救急車お願いします。お腹が痛くて。立ってトイレにも行けない状態なのです。(ぼくは床に突っ伏していた)はい、、、はい、、、お願いします」
ぼくは電話を切った。
そのあとどう演技を続ければいいのか、考えてはいなかった。
どうすればいいのか頭でわからなかった。
しかし衝動的に立ち上がり、ぼくは普通に歩き出していたのである。
「あれーっ、直っちゃったよ。さくさく歩ける。どうしよう、救急車呼んじゃったよ」
ぼくは右往左往した。
すると周囲で笑い声が起こったのが聞こえた。

ぼくの演技は成功したのだと思った。
これはつまりぼくが『身体的アクション』に集中して、衝動的に次のアクションを選ぶことが出来たからだと思う。

次に与えられたお題は『バスケットボールをする』だった。
どう演じようと考える暇はない。
ぼくはすぐさま架空のボールでドリブルを始めて、ゴールに向かい始めた。
ジャンプしてシュート!
次の瞬間、ぼくはバスケットのリングに両手で掴まっている演技を始めていた。
「わーん、助けてよう。降りられなくなっちゃったよー」

これも衝動的に選んだアクションだった。
状況設定がしっかりあって、台詞が決められている場合とは、もちろん違うかもしれないけれども、ああ、これが演技しながらも、いまこの瞬間を生きるっていうことなのかなあと思った。

俳優のためのハンドブック

表題の本を購入。
ぼくの知りたかったことが書いてあるような気がして。
まだ全部は読んでいない。
でもきっといい本だ。
何より記述が簡潔なのがよい。わかりやすい。
演技についての疑問点に簡潔に答えてくれている。
こんな本が、二十年前に出てくれていればなあ。

夜は、劇団チャリT企画の公開稽古へ。
とにかく元気に、エネルギーを表に出すことを心がけた。
せっかくお金払って稽古に来てるんだから、
頑張らないとね。
充実したエチュードが出来たと思う。

2012年10月8日月曜日

サーロインステーキのおいしい焼き方

誰かの真似みたいな短篇書いてみました。

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サーロインステーキのおいしい焼き方

 サーロインステーキ。
 普段は滅多に食べない。実家でも食べなかった。家が貧しかったから? 余計なお世話だ。ステーキを食べる習慣自体がなかったんだ。カレーライスなら毎週食べた。
 食べたのは、いままでに数回しかない。たぶん同年代の日本人で、食べた回数がもっとも少ない部類に入るだろう。きっと必要のないものなんだ、少なくともぼくの人生にとっては。
 最初に食べたのは、大学に通うために東京で一人暮らしを始めてしばらくたった頃だ。たぶん夏休み前だと思う。その頃のぼくは彼女を作ることに必死だった。もっとぶっちゃけて言えば、やりたくて仕方がなかったのだ。それでクラスの女の子をひとり選んで、アパートに招待した。ぼくのアパートにのこのこやってくるということは、その娘だって、そういうことを期待していたはずだ。胸がどきどきしたね。
 どうやってもてなそう。考慮に考慮を重ねた結果が、肉の量販店でサーロインステーキを買ってきて、焼いて二人で食うということだった。ぼくは店でいちばん高級な肉を二枚買った。ところが焼き方を知らなかった。当日は外側は焦げて、内側にはまだ火が通っていない肉を二人で食べることになった。食べながら何か話をしたと思うけれど、何を話したかは忘れた。そして結局ぼくはその女の子の手を握ることもできなかった。最後に彼女は四股を踏むような動作を何度か繰り返してから、ぼくの部屋を出て行った。彼女はぼくを軽蔑したのだ。四股と軽蔑がどうつながるのか、ぼくにもわからない。でもぼくは彼女のその動作を見て、軽蔑されたと痛烈に感じたのだ。もうそのような失敗は繰り返すまいとぼくは自分自身に誓った。
 次にサーロインステーキ食べたのは、それからずっと後になってからだ。そのときにはもう結婚していた。向こうの家の両親と義理の姉と、それから妻とぼくの五人。車で埼玉に墓参りにいった帰りに、ステーキハウスに寄った。そのときみんなでサーロインステーキを食べたのだ。もちろん義父のおごりだ。でも申し訳ないが、その頃にはぼくと妻の関係はぎくしゃくしたものになっており、もう後戻りのできない状況だったのだ。それから何週間後かにぼくらは離婚することになる。ぼくはまた一人暮らしに戻り、料理を自分でつくるようになった。
 その次に食べたのはいつだったろう。かなり昔のことだ。何かの懸賞に応募したら、賞品としてオーストラリア産のワインとビーフが当たってしまったのだ。自分ではまず買わない上等品だ。
 品物が届いた日、友だちがたまたま家に遊びに来たので、いっしょに食べて飲んだ。友だちは、うまいうまいと言った。ぼくも満足だった。ところがその友だちとは些細なことで喧嘩して、いまは連絡も取らなくなってしまった。携帯からメールを何度か入れたが返信はまだない。まあ、よく喧嘩はしてたからね。本当はもう会わないほうがいいのかもしれない。
 思い出す限りそれだけだ。サーロインステーキを食べたいとはそんなに思わない。ぼくにはやっぱり必要のないものなんだろうな。世の中からなくなることは無いだろうけど。
 でもおいしい焼き方は勉強して覚えている。教えようか?

ピーターパン、そろそろ就職しやがれ!2

今日も行ってしまった、立教大学の劇団テアトルジュンヌ。
到着時間がぎりぎりになってしまったので、空いている後ろの席へ。
今日のほうが観客の反応がいいように思える。
そのせいなのか昨日よりいい出来だったような気がする。
エピローグの子供ふたりの場面はやっぱりほろっとした。
ほろっとするのは歳のせいなのだろうか。

夕方、劇団アレルギー集団のワークショップへ。
インプロっていうんですか?
アレルギー集団の主催の方はエチュードと呼んでいたけど。
つまり即興。
なかなかうまく出来ない。
もっと数をこなしたい。

2012年10月7日日曜日

劇団テアトルジュンヌ『ピーターパン、そろそろ就職しやがれ』

劇団テアトルジュンヌ。
10月6日マチネ、立教大学ウイリアムズホール。

不思議でした。
エピローグ、こども二人が出てくる最後の場面で、涙が出てくるとは。
今日もあるので、もう一度観に行ってこようかと。

俳優陣がみなさん個性的で魅力的でした。

2012年10月5日金曜日

バイヲチックリサス『送別会』

午後は、バイヲチックリサス『送別会』を観に渋谷へ。
舞台の周囲に客席があるつくりだったので、むこう側の観客の顔が見える。
どんな顔して見てるのか、そっちのほうも面白かった。
芝居のほうは、あっさりした感じだった。

いったん帰宅して、夕方から劇団40CARATのワークショップに参加した。
本読みと立ち稽古が中心だった。
はじめて顔を見る方が何人かいた。
皆さん、来年一月公演に出演されるそうだ。
実はぼくも先日「出てみない?」っていわれて、出演することになっている。

ワークショップに参加したのは、純粋にダイエットのためだった。
それが舞台に立つことになるなんて不思議。
どんな芝居になるんだろう。
いまから楽しみ。

鷹狩り

小説書いてみた。

小説っていうほどのものじゃないかもしれないけど。
短篇小説。
セリフしかないから、脚本みたいな感じになってしまってるけど。
でも本人(私)としては、小説のつもりで書きましたとさ。
読んで、感想など聞かせていただければと、、、
とはいえあんまりストレートな罵倒はしないでね、夜眠れなくなっちゃうから。

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鷹狩り

おいおい、ぶつかってくるなよ。
ぶつかってないよ。ぶつかってきたのは、お前のほうだろう?
いや、なに言ってんだよ。お前がぶつかってきたんだろう?
いや、お前だろう? 変なやつだな。お前がぶつかってきたんだろう?
違うよ。おれはずっとここに立ってたんだから。見ろよ。この線の、ここの位置に、つま先をしっかり合わせて立ってたんだから。ほら一歩も動いてないだろう。おれはこんなふうに線に沿ってきっちり立ってるのがすきなんだよ。だからおれはここを一歩も動いてないの。それなのにお前がこっちのほうに倒れてくるから、ぶつかったんじゃないかよ。
いやいやいや。待てよ。おれだってここから一歩も動いてないんだぜ。見てくれよ。おれのほうは、ほら、この白線のここの位置にぴったりかかとをそろえて立ってるんだから。ほらこのとおり。一ミリもずれてないぞ。な? な? 見たろう? おれはきっちりした性格で、こんなふうに線にそろって立たないと気持ちが悪くて仕方ないんだよ。気持ち悪くて死にそうになるんだよ。だから言える。おれはまったく動いていない。ぶつかってきたのはお前のほうに決まってるんだよ。そうに違いないんだよ。
お前ね。頭悪いな。何度おんなじこと言わせるんだよ。おれはここから一歩も動いてないって言ってるだろう。お前日本語わかんないの? もしもし? あなたニホンゴわかりますか? わかったら返事してください!
ふざけんなよ。このやろう。その手をどけろ!
痛え!
おれはここから一歩も動いてないっつってんだろう。それがわかんないのか。お前こそ日本語がわかんねえんじゃねえのか。このポンコツやろう。
だれがポンコツだよ。だれがポンコツだってんだよ。
お前だよ。お前。お前以外に誰がいるってんだよ。お前以外にいねえじゃねえかよ。
おいおい、誰に向かって言ってんだよ。ポンコツのこんこんちき野郎にポンコツなんて言われる筋合いはねえよ。
なんだとこの野郎。いい加減おれは怒るよ。
怒るのはおれのほうだよ。大概にしとけよ。ほんとにほんとに怒っちゃうぞ。
おお、怒ってくれよ。どんなふうに怒るのか楽しみだ。さあ、怒ってくれ。みなさあん、いまからこの男が怒るそうですよお。どんなふうに怒るのか楽しみですねえ。用意はいいですかあ。はい! スタート!
おい、お前ら。いつまでそんなくだらねえ喧嘩してるんだよ。そんなふうに立ってたら、ぶつかんのは当たり前だろう? さあ、行くぞ、鷹狩りに。
あ、ちょっと待ってくださいよお。
うえーん、置いてかないでえ。

2012年10月4日木曜日

犬と串『さわやかファシズム』

劇団犬と串の初日を観てきた。
王子小劇場。
『さわやかファシズム』

春の前回公演『宇宙Remix』は、
毎週土日、計4回も観に行った。
その4回とも観に行くたびに新鮮で面白かった。
そして4回とも最後には感動させてもらったのだが、、、
今回は、ん? と思った。

公演時間が2時間20分。
それが全然長いとは思わなかった。
客演が個性的で、それぞれが面白かったし。
でも、、、
なんとなく犬と串っぽくなかったんだよなあ。

いや、充分犬と串っぽかったよ。
舞台上で展開される物語やイベントはいつもどおりで、、、でも。

犬と串ってのは劇団メンバー5人が(6人だっけ?)、
入れ替わり立ち代り舞台に出てきて、
それぞれの個性をぶつけ合うっていうところが
面白いんだと思う。
でも今回は劇団メンバーたちが、
それより多い客演たちや先輩たちに遠慮して、
大人しい感じに見えた。
それが犬と串っぽくないと感じた原因かもしれない。
(ほんとは遠慮なんかしてないんだろうけどさ)

つまらないわけではなかったよ。
充分面白かったよ。
ただ客演が劇団メンバーより多くて、
犬と串らしさが薄まっていて、
期待したものとちょっと違ってたもんだから、ちょっと、、、
(ぼくは贅沢とか我がまま言ってるだけかもしれない)
劇団色というのは、出てくる俳優で決まるもんなんだなあ。
当たり前かもしれないけど。
しかし劇団が成長して殻を破っていく過程では、
こういう公演も必要なんだろう。

ところで『さわやかファシズム』と聞いて、
『やわらか戦車』を思い出したな。
ただそれだけ。

次回も必ず観に行くよ。
やっぱり犬と串だーいすき。

2012年10月3日水曜日

密息

劇団山の手事情社のワークショップに参加したときのこと。

講師の浦さんが、
「山の手の呼吸法は密息です。正確には密息とはちょっと違うんだけど」
というようなことをおっしゃっていた。

呼吸法というと、いままでは胸式と腹式しかないと思っていた。
胸筋を使って胸を膨らませるのが胸式で、
腹筋を使って横隔膜を下げるようにして胸を膨らませるのが腹式。
第三の呼吸法が密息らしい。

でも密息ってなに?
検索して調べてみると、以下のような説明が。
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具体的なやり方はこうだ。まず足を開いて腰を落とし(骨盤を後ろに倒し)、身体の力を抜く。息を吸うときも、吐くときも腹を張り出した状態を保つ。
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やってみたけど、そんなことできないよ。
下腹を張り出したまま呼吸なんて。
どうしたら出来るの?
本当に出来るものなの?

2012年10月2日火曜日

はじめまして。どうぞよろしく。

今日からぼくもブログに挑戦してみる。
以前にも違う場所でブログを作ったことがあるのだけれど、
記事はひとつも書いていない。
なぜか書けなかった。

心機一転、ここでまた始めてみようと思う。
とにかく書くことが大事だと思うから、こうしてパソコンに向かっている。
ようやくひとつ記事を書くことができそうだ。
続けられればいいのだけれども、、、

一応CGアニメーターと名乗っているから、CG関係のことや、
それから、舞台俳優としての活動のことやら、
それからまあ、その他いろいろ。
思いついたことを書き連ねていきたい。